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hort story

ペタンペタン
知り合ったばかりの友人と焼き肉を食べに行ったんだよ。
5歳くらい年下の友人で、ドンドン肉を焼いてくれるから、
楽だなー、なんて思ってたらさ、
俺はある事に気がついたんだよ。

すぐ近くに通路があるテーブルにいた俺たちの横を、
店員さんやらトイレに歩いていくお客さんが
ひっきりなしに通るんだけど、そこをさ、誰かが通るたびに、
彼が肉をひっくり返す事に気がついてしまったんだよ。
ふと誰も通らない時間があると、奴は全然肉を裏返さない。
じゃんじゃん人が通る時は、まだ肉が生だろうが、何だろうがバンバン裏返す。
あれま、変な癖だなー、なんて軽く思ってたんだけど、
団体さんが来ちゃってさ、
もうそいつはテンション上がりっ放しで生の肉を次から次へとペタンペタン返すんだ。
そりゃあもう真剣にね。
肉を乗せすぎて網の温度が下がって肉がくっ付き始めた頃、
ようやく団体が後ろに過ぎていった。

俺はさすがに聞いたよ、お前一体どうなっちゃってるんだ?ってね。
すると、彼は不思議そうな顔をする。そんな自分に全然気がついてなかったんだ。
ふと、気になった。
仕事は何やってるんだい?
「あ、僕鎌倉の店頭で大きいセンベイ焼いてるんです」って。
なるほど、そうゆう事か。
俺はすかさず店員を呼んで違う席に移動させてもらうことにした。

店員がテーブルに近づく。
彼はまたペタン、と肉を返した。

- written by kim -

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