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hort story

古い看板
ある国道沿いにかなり大きな看板がある。遠くからでもはっきりと読める字で、
『そろばんできますか?』
と書いてある。
いつもはなんとなく見ているだけだったので分からなかったが、
近くまで寄ってその看板をよく見ると、不思議な事に会社名が書いてない。
きっと大きなそろばん塾の広告だと勝手に思っていた俺にはかなり意外だった。
しばらく看板の裏などを眺めたりしながら近くをうろうろしていると、
腰の曲がったおじいさんが嬉しそうに話しかけて来た。

「き、君は、、できないのかい?」

いや、僕は出来ます。2級です

と答えた。
おじいさんはそれを聞くと何も言わず悲しそうに去って行った。
おじいさんはある方向を向いて首を横に振った。
視線の先にはボロボロの小屋の前に立つおばあさんがいた。
そこにはやはり、小さな小さなそろばん塾があった。
おばあさんは、おじいさんが小屋の中に入るのを見届けると、
俺に向かって深く頭を下げた。
その時ほどそろばんが出来る事を後悔した事は無い。
鈴虫の音が遠くに聞こえる夕暮れだった。

- written by kim -

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