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hort story

影の売り場
数年前、自分の影を無くした事があって、急いで新しい影を買いに行った時の事を書こうか。
ある海岸沿いにあるその店では影を売っていた。
店内には特に何も置いてなく、ただ料金説明の紙が張ってあるだけだった。
奥に向かって恐る恐る声をかけると、返事もせず、音も立てずに何者かが出て来た。

影だった。

フワリと現れた影は海岸を指さした。

海岸を一緒に歩こうってのか?
そう聞くとまたフワリと頷く。不安になりながらも先に店を出た俺は近くの海岸まで歩いた。

この辺でいいかい?

そう言って振り向くと、もうそこには立っている影はいなかった。

ただ俺の動きを一生懸命真似て動くひたむきな新しい俺の影が目に入った。

お前も相手を探してたのか?

そう聞くと影は小さく頷いた。
濡れていない砂に映る久しぶりの自分の影は、なんだか随分色が濃いような気がした。

- written by kim -

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